救急科専門医/薬師寺慈恵病院 副院長
薬師寺泰匡先生の書いた記事とても興味深かったので紹介させて頂きます。
世間ではワクチンの効果について歓迎する声が高まっていますが、おそらくワクチンの完成により、即時バラ色の時代がやってくるわけではないです。
やはり私たちはWithコロナの時代をどう生き抜くかを真剣に考えざるを得ないと痛感しました。
<以下引用記事>
本題の新型コロナウイルスのワクチンについてですが、救急医としては、少し冷静に眺めています。現時点で、新型コロナウイルスに対するワクチンが、重症化をどれほど軽減するかはわかりません。長期的な予防効果についてもわかりません。遅発性の副反応や、レアな副反応についてもわかりません。また、実のところ保存は-70℃ということで、どこでも接種できるかという点について疑問は残ります。そして、上の二つの図で分かる通り、ワクチンの効果が100%でない限りは、発症をゼロにはできません。この点について、社会は向き合っていかねばなりません。インフルエンザはワクチンも治療法もあるからコロナより怖くないとよく言われるのですが、それでも毎年、一定数の重症インフルエンザの患者さんはいらっしゃいますし、死亡してしまう方もいます。幼い命がインフルエンザ脳症で奪われる瞬間や、インフルエンザに合併する肺炎で短期間のうちに呼吸不全に陥る例を目の当たりにしています。重症患者さんが多数発生して、集中治療室のベッドがいっぱいいっぱいになり、外傷などインフルエンザ以外の患者さんのための病床がどうにもならないといった瞬間も経験します。COVID-19の流行により、こうしたことがこれまで以上に広がるのではないかと、国内に入ってきた頃から一救急医療従事者として心配していおりました(今でも)。
COVID-19は、およその対応法、治療法が確立しつつあります。しかし、その感染力の高さから、できる限り個室管理とし、重症管理を行うときには、なるべく多数のスタッフが関わることのないようにという配慮も行います。疾患として、インフルエンザよりこの点は厄介です。人が余分にとられてしまいますので、病床はあっても診療する人がいないという事態も生じてしまいかねません。
世間ではワクチンの効果について歓迎する声が高まっていますが、おそらくワクチンの完成により、即時バラ色の時代がやってくるわけではないです。重症化をどれだけ防げるかということがわからなければ、死亡者がどれほど発生するか、救急医療をどれだけ逼迫させるかは検討がつきません。重症化率や死亡率が高いままであれば、ワクチンが完成しても、罹患時には驚異のままとなります。ただ、流行スピードは落ちるでしょうから、ある程度発症することを許容しつつ、かつての新型インフルエンザのように社会に溶け込んでいくのかもしれません。不安の薄れと共になんとなくそのような形に落ち着くかもしれませんが、ワクチン完成に伴い、これまでより一層どの程度の感染者数だと社会は回るのか、許容できるのかということを考えていかねばなりません。救急医療の崩壊は、生命の安全が担保された社会とは言い難いです。現実的には、「救急医療を担保しつつ、COVID-19対応もできる」というのが、社会が許容できる感染者数となるのではないかと個人的には考えています。
mRNAワクチン以外にも、種々のワクチンを開発中です。ワクチンにより、さらに社会全体の活動度があげられるかもしれません。しかし、もうしばらくは現在の感染予防策を続けながら様子を見ていく必要があるかと思います。出口を見せてくれた開発者や関係のみなさまには、感謝申し上げるばかりです。